就業規則や雇用契約書を英訳するとき、いちばん悩ましいのは長い文章そのものより、労働法用語をどう訳すか です。
日常会話なら自然に見える英語でも、就業規則として配るには少し弱いことがあります。逆に、汎用AIや機械翻訳の出力が完全な誤訳ではなくても、外国人従業員に渡す書類としては説明が足りないこともあります。
この記事では、2026年5月16日時点 で確認できる公開情報をもとに、就業規則や雇用契約書で特に迷いやすい労働法用語を10個に絞って整理します。根拠として主に参照するのは、法務省の 日本法令外国語訳データベースシステム と、厚生労働省の公開資料です。
日本法令外国語訳データベースシステムの英訳は参考訳であり、法的効力を持つのは日本語の原文です。実際に外国人従業員へ配布する前には、社内確認や必要に応じた専門家確認をご検討ください。
この記事から先に見たいページ
「とりあえず知りたい」ではなく、「今まさに書類を整えている」人向けに、先に入口をまとめます。
| 今見たいもの | 先に読むページ |
|---|---|
| 就業規則全体の考え方 | 就業規則の英訳・多言語化 |
| 雇用契約書や労働条件通知書 | 雇用契約書の英訳・多言語化 |
| 36協定や残業説明 | 36協定の英訳・多言語化 |
| 用語を一覧で探したい | 労働法用語の英語・英訳一覧 |
| 翻訳の根拠を確認したい | 翻訳の根拠と考え方 |
まず一覧で見る
| 用語 | 押さえたい英語 | まず見るページ | なぜ迷いやすいか |
|---|---|---|---|
| 試用期間 | probationary period | 試用期間 | 研修期間と混ざりやすい |
| 懲戒 | Disciplinary Action | 懲戒 | punishment のように平板化しやすい |
| 労働条件 | working conditions | 労働条件 | 採用時の明示事項と結びつく基本語 |
| 賃金 | wage | 賃金 | salary や pay に寄せすぎやすい |
| 所定労働時間 | prescribed working hours | 所定労働時間 | 法定労働時間と混ざりやすい |
| 時間外労働 | Overtime Work | 時間外労働 | 残業一般と制度語が混ざりやすい |
| 休日労働 | Holiday Work / work on a day off | 休日労働 | 法定休日の意味が伝わりにくい |
| 深夜労働 | Night Work | 深夜労働 | 夜勤一般と割増賃金が混ざりやすい |
| 割増賃金 | premium wages | 割増賃金 | overtime pay だけで処理しがち |
| 年次有給休暇 | Annual Paid Leave | 年次有給休暇 | paid leave 全般と混ざりやすい |
書類別に見ると、どの用語が大事か
就業規則で特に見られやすい用語
就業規則では、章立てや制度語が並ぶため、次の語から見ていくと整理しやすいです。
雇用契約書で特に見られやすい用語
雇用契約書や労働条件通知書では、個別条件に直結する語が重要です。
残業・36協定の説明で見られやすい用語
36協定や残業説明では、次のまとまりで見ると意味の境界が分かりやすくなります。
1. 試用期間
試用期間 は、雇用契約書や就業規則でかなりよく出る基本語です。
法務省の公開データでは、労働基準法第21条などで probationary period が確認できます。ここで迷いやすいのは、training period や introductory period のような、研修や導入期間に寄った英語で処理してしまうことです。
就業規則や雇用契約書では、本採用前の評価期間 という制度の意味を残すことが大切です。詳しくは 試用期間の用語ページ で整理しています。
2. 懲戒
懲戒 は、就業規則の中でも特に説明のズレを避けたい語です。
法務省の公開データでは、労働契約法第15条の見出しで Disciplinary Action が確認できます。punishment だけで片づけると、就業規則に基づく制度としての意味が薄くなりやすいです。
懲戒章を英訳するときは、懲戒そのものに加えて、減給、出勤停止、普通解雇 のような周辺語まで合わせて整えると、説明がぶれにくくなります。
3. 労働条件
労働条件 は、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則のすべてにまたがる基本語です。
法務省の公開データでは working conditions が確認できます。ここで重要なのは、単なる work terms のような言い換えにせず、採用時に明示すべき条件全体を指す制度語として扱うことです。
外国人従業員への説明では、賃金、所定労働時間、休日、退職などの具体項目と一緒に見せると理解しやすくなります。詳しくは 労働条件の用語ページ をご覧ください。
4. 賃金
賃金 は、就業規則や雇用契約書で最も基本になる語のひとつです。
法務省の公開データでは、労働基準法第11条などで wage が確認できます。ここでよくあるズレは、すべてを salary に寄せてしまうことです。
制度語としての 賃金 は、給料、手当、賞与などを含む広い概念です。なので、まずは wage を軸 にして、必要に応じて 賞与 や 平均賃金 と分けて見せるほうが実務では整理しやすくなります。
5. 所定労働時間
所定労働時間 は、就業規則や雇用契約書で日常的に出てくる基本用語です。
法務省の公開データでは prescribed working hours が確認できます。難しいのは、これを working hours だけで処理すると、会社が定めた通常の労働時間 という意味が抜けやすいことです。
とくに 時間外労働 や 36協定 とつながる説明では、所定労働時間と法定労働時間の違いを押さえておくことが大切です。
6. 時間外労働
法務省の公開データでは、労働基準法第37条の見出しなどで Overtime Work が確認できます。
ここで起きやすいズレは、これを単に「残業」と同一視してしまうことです。就業規則や36協定の説明では、休日労働 や 深夜労働 との関係まで考える必要があります。
外国人従業員向けの説明では、「通常の勤務時間を超える労働」であることを補いながら、制度語としての Overtime Work を崩さないほうが伝わりやすくなります。
7. 休日労働
休日労働 は、法務省の公開データでは Holiday Work、本文では work on a day off という形が確認できます。
この語が難しいのは、見出し語と本文表現の両方が自然に存在することです。しかも、単に「週末勤務」とすると、法定休日や所定休日の考え方が抜けてしまいます。
制度名として整理するなら Holiday Work、文章で説明するなら work on a day off といった使い分けが実務では有効です。詳しくは 休日労働の用語ページ を参照してください。
8. 深夜労働
法務省の公開データでは、労働基準法第37条の見出しとして Night Work が確認できます。
ここで起きやすいのは、night shift のような勤務シフト一般の語に寄ってしまうことです。しかし、就業規則で重要なのは、深夜時間帯と割増賃金の関係 です。
夜勤の話と、労基法上の 深夜労働 の話は重なりますが同じではありません。制度語としての Night Work を軸にしたほうが、賃金ルールの説明とつながりやすくなります。
9. 割増賃金
割増賃金 は、残業説明で外せない語です。
法務省の公開データでは、労働基準法第37条で premium wages が確認できます。ここでよく起きるのは、すべてを overtime pay に寄せてしまうことです。
実際には、時間外労働、休日労働、深夜労働で割増の考え方が関わります。なので、まずは premium wages を軸にして、文脈に応じて補って説明するほうが整理しやすくなります。詳しくは 割増賃金の用語ページ をご覧ください。
10. 年次有給休暇
法務省の公開データでは、労働基準法第39条の見出しとして Annual Paid Leave が確認できます。
ここで起きやすいズレは、paid leave を広く取りすぎてしまうことです。社内独自の特別休暇まで混ざると、法定の年次有給休暇としてはぼやけます。
就業規則の英訳では、単に「有給の休み」とするより、制度名としての Annual Paid Leave を軸にしたほうが意味が安定します。詳しくは 年次有給休暇の用語ページ をご覧ください。
36協定はどう考えるか
36協定 は、上の10語と少しタイプが違います。これは条文用語というより、実務で定着した 通称 だからです。
厚生労働省は、法定労働時間を超えて時間外労働または休日労働をさせる場合には、あらかじめ36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があると案内しています。(厚生労働省「36(サブロク)協定とは」)
英訳では、単語を一対一で決めるというより、
Article 36 agreementagreement on overtime and holiday work
のように、条文番号と中身の説明を補って見せるほうが実務では伝わりやすくなります。詳しくは 36協定のページ で整理しています。
用語だけではなく、書類全体で見ることが大事
就業規則や雇用契約書では、文学的に自然な英語であることよりも、制度の意味がずれないこと のほうが大切です。
一般文書なら多少の言い換えが許されても、外国人従業員に渡す雇用書類では、
- 賃金ルール
- 労働時間ルール
- 残業と割増賃金
- 休暇制度
- 解雇や懲戒
の理解に直結します。
そのため、汎用AIや機械翻訳を否定する必要はありませんが、そのまま配布用にする前に、法令文脈で訳語を整える工程 はやはり重要です。
Dawnlight での見方
Dawnlight 資料翻訳では、法令用語について次の考え方を取ります。
- 法務省 日本法令外国語訳データベースシステムに準拠する
- 標準対訳辞書を参照する
- 章・条・項や別表の構造を確認しやすい形で出す
- 外国人従業員に渡す雇用書類という用途を前提に整える
詳しくは 翻訳の根拠と考え方 にまとめています。
まとめ
今の glossary は、検索意図の強い用語を調べる入口として、かなり土台ができてきました。これから見るなら、まずは次の順番がおすすめです。
- 就業規則の英訳・多言語化 か 雇用契約書の英訳・多言語化 を開く
- そこで気になった語を 労働法用語の英語・英訳一覧 で探す
- 個別の用語ページで、公開データに照らした訳し方を確認する
就業規則や雇用契約書を外国人従業員に渡せる形で整えたい場合は、まず 資料を受け取る ところから進められます。