処遇改善加算の加算額を試算したら、次にやるべきことは「届出」です。処遇改善加算を算定するには、体制届出・処遇改善計画書・実績報告書という3つの手続きが必要で、どれか1つでも期限を逃すと算定できません。加算額の試算は処遇改善加算シミュレーション・計算ツールで行えますが、この記事では試算後に必要な届出の書き方と提出期限を、令和8年度の厚生労働省通知にもとづき整理します。
この記事は、厚生労働省老健局長通知「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(老発0313第6号、令和8年3月13日)を根拠にしています。通知本文と様式は厚生労働省の申請方法・申請様式ページからダウンロードできます。
なお、令和6年6月に複数の加算が一本化されて「介護職員等処遇改善加算」が創設され、令和8年度は期中改定によって対象が介護職員のみから介護従事者に拡大し、令和8年6月からは訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援等にも新設されました。訪問看護等の加算率については別記事で扱います。
本記事は2026年7月14日時点の厚生労働省公開資料(老発0313第6号、令和8年3月13日)にもとづきます。提出先・提出期限は都道府県により異なる場合があるため、正式な届出では最新の通知・様式・自治体の案内を必ず確認してください。
処遇改善加算の届出は3つある
処遇改善加算を算定するには、事業年度ごとに次の3つの手続きが必要です。
- (A) 体制届出(体制等状況一覧表等)— 事業所ごとに提出
- (B) 処遇改善計画書(別紙様式2)— 算定開始前に提出
- (C) 実績報告書(別紙様式3)— 事業年度終了後に提出
3つとも提出先・提出期限が異なるため、まず全体の流れをつかむことが大切です。令和8年4月から算定を開始する場合の年間の流れは次のとおりです。
厚生労働省老発0313第6号(令和8年3月13日)にもとづく整理
- 算定開始月の前々月末まで
処遇改善計画書の提出
別紙様式2。令和8年4・5月分は特例で令和8年4月15日までに提出。
- 前月15日(居宅系)/当月1日(施設系)
体制届出
居宅系サービスは算定開始月の前月15日、施設系サービスは当月1日までに提出。
- 令和8年4月〜
加算の算定開始
体制届出・計画書の提出後、賃金改善を実施しながら加算を算定。
- 令和9年7月31日
実績報告書の提出
別紙様式3。最終の加算支払月の翌々月末まで(令和9年3月分の支払が令和9年5月のため)。
処遇改善計画書(別紙様式2)の書き方と提出期限
処遇改善計画書は別紙様式2-1〜2-3で作成します。提出期限は「当該事業年度において初めて処遇改善加算を算定する月の前々月の末日まで」です。都道府県知事等に提出し、根拠資料と併せて2年間保存する必要があります。なお、確認事務に時間が確保できる場合など、都道府県知事等は提出期限を延長しても差し支えないとされています。
**令和8年度は特例があります。**令和8年4月・5月分の算定に係る計画書は、令和8年6月以降の算定に係る計画とあわせて「令和8年4月15日」までに提出します。加算新設事業所のみが所属する事業者など、令和8年4月・5月分は算定せず6月以降から算定する事業者は「令和8年6月15日」までとなります。
計画書には、賃金改善の見込額・配分方法、自事業所が満たす加算区分と要件、キャリアパス要件・職場環境等要件で実施する取組の内容などを記載します。加算区分ごとに必要な要件は次の章で整理します。
体制届出の期限(居宅系・施設系で違う)
体制届出(体制等状況一覧表等)は事業所ごとに提出するもので、サービス類型によって提出期限が異なります。
| サービス類型 | 提出期限 |
|---|---|
| 居宅系サービス(居宅介護支援・介護予防支援を含む) | 算定を開始する月の前月15日まで |
| 施設系サービス(短期入所生活介護・短期入所療養介護・(地域密着型)特定施設入居者生活介護・認知症対応型共同生活介護・地域密着型介護老人福祉施設を含む) | 算定を開始する月の1日まで |
令和8年4月から新規に算定を始める場合・区分を変更する場合の体制届出期日は、居宅系・施設系いずれも令和8年4月1日です。ただし、計画書の提出期限が令和8年4月15日であることを踏まえ、都道府県知事等は体制届出も4月15日としても差し支えないとされています。
加算区分Ⅰ〜Ⅳと満たすべき要件
処遇改善加算は、賃金改善の実施に加えて、区分ごとに定められた要件を満たす必要があります。下位区分ほど求められる要件は少なくなります。
| 加算区分 | 必要な要件 |
|---|---|
| 加算Ⅰ(令和8年4・5月分)/加算Ⅰイ(6月以降) | ①〜⑦を全て満たす |
| 加算Ⅰロ(令和8年6月以降) | 加算Ⅰイの要件に加えて⑧ |
| 加算Ⅱ(令和8年4・5月分)/加算Ⅱイ(6月以降) | ⑥を満たす |
| 加算Ⅱロ(令和8年6月以降) | 加算Ⅱイの要件に加えて⑧ |
| 加算Ⅲ | ⑤及び⑥を満たす |
| 加算Ⅳ | ④〜⑥を満たす |
要件①〜⑧の内容は次のとおりです。
- ① 月額賃金改善要件:処遇改善加算Ⅳの加算額の2分の1以上を基本給または決まって毎月支払われる手当(基本給等)の改善に充てる。
- ② キャリアパス要件Ⅰ:職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を定め、就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し全職員に周知する。
- ③ キャリアパス要件Ⅱ:資質向上の目標や具体的な計画を策定し、研修の実施または研修機会の確保を行う。
- ④ キャリアパス要件Ⅲ:経験・資格等に応じて昇給する仕組み、または一定基準による定期昇給の仕組みを設け、就業規則等の根拠規程を書面で整備・周知する。
- ⑤ キャリアパス要件Ⅳ:経験・技能のある介護職員のうち1人以上が、賃金改善後の賃金見込額(処遇改善加算による改善見込額を含む)が年額440万円以上であること(小規模事業所での賃金バランス等、合理的な説明がある例外あり)。
- ⑥ キャリアパス要件Ⅴ:サービス類型ごとに一定以上の介護福祉士等を配置し、サービス提供体制強化加算・特定事業所加算・入居継続支援加算・日常生活継続支援加算のいずれかの区分を届け出ている。
- ⑦ 職場環境等要件:別紙1表1-4に掲げる処遇改善の取組を実施する(次章で解説)。
- ⑧ 令和8年度特例要件:生産性向上や協働化に係る取組(ケアプランデータ連携システムの利用、生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡの算定、社会福祉連携推進法人への所属のいずれか)。
常時雇用10人未満で就業規則の作成義務がない事業所等は、就業規則の代わりに内規等の整備・周知でも構いません。また令和8年度は、計画書で令和9年3月末までに整備・実施を誓約すれば、申請時点から要件を満たすものとして取り扱われる特例があります(誓約した場合は令和9年3月末までに実施し、実績報告書で報告します)。
職場環境等要件と公表
⑦の職場環境等要件(別紙1表1-4)は、次の6つの区分からなります。
- 入職促進に向けた取組
- 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
- 両立支援・多様な働き方の推進
- 腰痛を含む心身の健康管理
- やりがい・働きがいの醸成
- 生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組
加算Ⅰ又はⅡ(及びⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ)を算定する場合は、各区分ごとに2以上の取組を実施します。加算Ⅲ又はⅣを算定する場合は、各区分ごとに1以上の取組で構いません。また、加算Ⅰ・Ⅱ系を算定する場合は、職場環境等の改善に係る取組をホームページ掲載等により公表する必要があります。
実績報告書(別紙様式3)の提出期限
実績報告書は別紙様式3-1・3-2で作成します。提出期限は「各事業年度における最終の加算の支払があった月の翌々月の末日まで」です。都道府県知事等に提出し、根拠資料と併せて2年間保存します。
令和8年度は、令和9年3月分の処遇改善加算の支払が令和9年5月であることから、通常の場合「令和9年7月31日」が提出期限となります。
計画書の段階で令和9年3月末までの整備・実施を誓約した特例要件(⑧など)がある場合、その実施結果も実績報告書で報告します。
提出前に確認したい注意点
処遇改善加算を算定する事業者は、加算額に相当する介護職員その他の職員の賃金(基本給・手当・賞与等、退職手当を除く)の改善を実施する必要があります。特定した賃金項目の水準を低下させてはならず、安定的な処遇改善の観点から基本給による賃金改善が望ましいとされています。「経験・技能のある介護職員」とは、介護福祉士であって勤続年数10年以上の介護職員を基本としつつ、経験や業務・技能を踏まえ各事業者の裁量で設定します。配分は事業所内で柔軟に認められますが、一部の職員や一部の事業所のみに著しく偏った配分は行いません。
計画書の提出にあたってはチェックリストを確認するとともに、記載内容の根拠資料、労働基準法第89条の就業規則等、労働保険に加入していることが確認できる書類を適切に保管し、都道府県知事等から求めがあれば速やかに提示できるようにしておく必要があります。
事業継続のため職員の賃金水準を引き下げた上で賃金改善を行う場合は、別紙様式5の特別事情届出書を届け出ます。加算の算定額に相当する賃金改善が行われていない、賃金水準の引下げをしながら特別事情届出書を出していないなど、要件を満たさない場合は、都道府県知事等が既に支給された加算の一部または全部を不正受給として返還させ、または加算を取り消すことができるとされています。
計画書・実績報告書の作成や賃金規程の整備は、判断に迷う場合は社労士・行政書士などの専門家や自治体の窓口に確認するのがおすすめです。
よくある質問
Q1. 処遇改善計画書はいつまでに提出すればよいですか?
原則は「当該事業年度において初めて処遇改善加算を算定する月の前々月の末日まで」です。令和8年度は特例があり、令和8年4月・5月分の算定に係る計画は「令和8年4月15日」まで、4・5月分は算定せず6月以降から算定する事業者は「令和8年6月15日」までです。都道府県知事等が延長を認める場合もあります。
Q2. 実績報告書の令和8年度の提出期限はいつですか?
原則は「各事業年度における最終の加算の支払があった月の翌々月の末日まで」です。令和8年度は、令和9年3月分の処遇改善加算の支払が令和9年5月であることから、通常の場合「令和9年7月31日」が提出期限となります。
Q3. 加算Ⅳと加算Ⅰでは要件はどう違いますか?
加算Ⅳは④〜⑥(キャリアパス要件Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ)を満たせば算定できます。一方、加算Ⅰ(令和8年4・5月分)・加算Ⅰイ(6月以降)は①〜⑦を全て満たす必要があり、令和8年6月以降の加算Ⅰロはさらに⑧の令和8年度特例要件も満たす必要があります。下位区分ほど求められる要件は少なくなります。
Q4. 事業継続のために職員の賃金を下げた場合はどうすればよいですか?
賃金水準を引き下げた上で賃金改善を行う場合は、別紙様式5の特別事情届出書を届け出る必要があります。届け出ずに賃金水準を引き下げていた場合や、加算額に相当する賃金改善が行われていない場合は、都道府県知事等が既に支給された加算を不正受給として返還させ、または加算を取り消すことがあるとされています。
まとめ
加算額の試算は処遇改善加算の計算ツール、配分の考え方は処遇改善加算の配分シミュレーション方法、介護事業所が使える他の補助金・助成金は介護事業者が使える補助金・助成金まとめを参照してください。