最終確認日:2026年5月24日
賃上げ促進税制は、従業員の給与を増やした企業が、一定の条件を満たす場合に法人税または所得税の税額控除を受けられる制度です。
補助金や助成金のように現金が直接振り込まれる制度ではありません。利益が出ていて税金を納める企業にとって、賃上げによる負担を一部軽くできる税制優遇です。
中小企業向けの賃上げ促進税制は、令和6年度税制改正で強化され、法人の場合は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象とされています。個人事業主の場合は、令和7年から令和9年までの各年が対象です。(中小企業庁)
簡単に言えば、前年度より給与総額を増やした中小企業が、増加額の一部を税額控除できる制度です。
ただし、注意点があります。賃上げ促進税制は「給与を上げれば必ずお金が戻る制度」ではありません。税額控除なので、赤字で法人税が出ない場合は、すぐに控除を使えないことがあります。ただし、現行制度では中小企業向けに5年間の繰越控除措置が設けられています。(ミラサポplus)
賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制とは、企業が従業員への給与支給額を増やした場合に、その増加額の一定割合を法人税または所得税から控除できる制度です。
中小企業庁は、中小企業向け賃上げ促進税制について、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度を対象として、制度が強化されたと案内しています。(中小企業庁)
この制度の目的は、企業の賃上げを後押しすることです。人手不足、最低賃金の上昇、物価高への対応が求められる中で、賃上げを行う企業の税負担を軽くする仕組みです。
ただし、補助金とは違い、事前に申請して採択を受ける制度ではありません。原則として、決算・確定申告の際に、要件を満たしているかを確認し、税額控除を適用します。
補助金・助成金との違い
賃上げ促進税制は、補助金や助成金と混同されやすい制度です。
| 種類 | 仕組み | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 補助金 | 審査に採択されると、対象経費の一部が後払いされる | 設備投資、販路開拓、IT導入などに使われる |
| 助成金 | 要件を満たすと支給される制度が多い | 雇用、労務、賃上げ、人材育成系が多い |
| 税制優遇 | 税額控除・特別償却などで税負担を軽くする | 利益が出ている企業ほど効果が出やすい |
賃上げ促進税制は、税制優遇です。つまり、会社が支払う法人税や、個人事業主が支払う所得税を減らす制度です。
そのため、補助金のように「採択されたら補助金が入金される」というものではありません。利益が出ていない会社や、税額が少ない会社では、控除効果が限定的になる場合があります。
一方で、中小企業向け制度では、令和6年度税制改正により5年間の繰越控除措置が創設されています。ミラサポplusも、令和6年4月1日以降に開始する事業年度から、中小企業向けに5年間の繰越控除措置が創設されたと説明しています。(ミラサポplus)
中小企業向け賃上げ促進税制の対象者
中小企業向け賃上げ促進税制の対象は、一定の中小企業者等です。一般的には、資本金1億円以下の法人や、常時使用する従業員数が一定以下の個人事業主などが対象になります。
ただし、資本金1億円以下であっても、大企業に一定割合以上支配されている法人などは対象外になる場合があります。
実際に使えるかどうかは、税法上の中小企業者等に該当するか、顧問税理士や税務署、公式ガイドブックで確認する必要があります。
特に、次のような会社は事前確認が重要です。
- グループ会社がある
- 親会社がある
- 大企業から出資を受けている
- 資本金が1億円に近い
- 個人事業主で従業員を雇用している
- 法人成りしたばかり
- 設立初年度または前年度比較が難しい
賃上げ促進税制は、単純に「中小企業っぽい会社なら使える」という制度ではありません。税法上の対象者に該当するかを確認しましょう。
控除率の基本
中小企業向け賃上げ促進税制では、雇用者給与等支給額が前年度より一定以上増加した場合、その増加額に対して税額控除を受けられます。
令和6年度改正後の中小企業向け制度では、基本的な考え方として、給与等支給額の増加率が一定以上であれば控除率が上がります。中小企業庁は、制度詳細について「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」とQ&Aを公開しています。(中小企業庁)
一般的な整理は次のとおりです。
| 賃上げ率 | 税額控除率の考え方 |
|---|---|
| 給与等支給額が前年度比1.5%以上増加 | 基本の税額控除 |
| 給与等支給額が前年度比2.5%以上増加 | 控除率が上乗せ |
| 教育訓練費の増加など | 追加の上乗せ対象になる場合あり |
| くるみん認定・えるぼし認定等 | 追加の上乗せ対象になる場合あり |
税額控除額には上限があります。一般的に、法人税額または所得税額の一定割合までが上限となるため、給与増加額が大きくても、税額が少ない場合は控除しきれないことがあります。
この点が、補助金との大きな違いです。
計算の基本イメージ
賃上げ促進税制の基本的な考え方は、次のようになります。
税額控除額 = 給与等支給額の増加額 × 控除率
たとえば、前年度の給与等支給額が2,000万円、今年度の給与等支給額が2,100万円だった場合、増加額は100万円です。
この100万円に対して、制度上の控除率をかけた金額が税額控除の候補になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 前年度の給与等支給額 | 2,000万円 |
| 今年度の給与等支給額 | 2,100万円 |
| 増加額 | 100万円 |
| 控除率 | 例:15% |
| 税額控除候補額 | 15万円 |
ただし、これはあくまでイメージです。実際には、対象となる給与等の範囲、比較対象年度、法人税額の上限、教育訓練費や認定要件による上乗せなどを確認する必要があります。
実務では、会計ソフトの給与データ、源泉徴収関係資料、決算書、法人税申告書、別表などと整合させる必要があります。
賃上げ促進税制が向いている会社
賃上げ促進税制は、次のような会社に向いています。
- 利益が出ていて法人税を納めている
- 従業員の給与を上げる予定がある
- 採用・定着のために賃上げが必要
- 最低賃金上昇への対応が必要
- 賞与や手当の増加を予定している
- 人材育成費用も増やしている
- 今後も継続的に賃上げしたい
特に、利益が出ている会社にとっては、賃上げによる人件費増加の一部を税額控除で軽減できる可能性があります。
一方で、赤字の会社や、法人税額が少ない会社では、すぐに効果が出にくい場合があります。ただし、中小企業向けには繰越控除措置があるため、今後黒字化が見込める会社では確認する価値があります。(ミラサポplus)
賃上げ促進税制が向いていないケース
次のようなケースでは、制度の効果が限定的になる可能性があります。
- 赤字で法人税が発生していない
- 給与等支給額が前年度より増えていない
- 従業員がいない
- 役員報酬の増加だけで、従業員給与が増えていない
- 税額控除の上限にすぐ達してしまう
- 給与データの整理ができていない
- 前年度比較が難しい
- 賃上げ計画が一時的で継続性がない
特に注意したいのは、役員報酬です。賃上げ促進税制で見る「雇用者給与等支給額」は、役員報酬とは扱いが異なります。社長や役員の報酬を増やしただけでは、制度の対象となる賃上げには該当しない可能性があります。
従業員への給与、賞与、手当など、どこまでが対象になるのかを確認する必要があります。
教育訓練費の上乗せ
賃上げ促進税制では、教育訓練費を増やした場合に控除率が上乗せされる仕組みがあります。
中小企業庁のガイドブックでは、教育訓練費に該当する費用として、外部講師への謝金、外部施設の使用料、研修講座・講習会・研修セミナー・通信教育などに関する費用が説明されています。(中小企業庁)
対象になり得る教育訓練費の例は、次のとおりです。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 外部講師 | 研修講師への謝金、講師招聘に関する費用 |
| 外部研修 | 研修講座、講習会、セミナー受講料 |
| 通信教育 | 業務に関係する通信教育費 |
| 技術指導 | 業務スキル向上のための技術指導費 |
| 資格・検定 | 教育訓練の一環として行われる受験手数料など |
ただし、すべての研修費が対象になるわけではありません。従業員の職務に必要な技術・知識を習得または向上させるための費用であることが重要です。
また、2026年度税制改正では、教育訓練費に係る上乗せ措置の見直し・廃止が議論されています。山田パートナーズの解説では、大企業・中堅企業向けの見直しに加え、中小企業向けでも教育訓練費に係る上乗せ措置の廃止が示されていると説明されています。(山田パートナーズ)
そのため、実際に申告する年度で教育訓練費上乗せが使えるかどうかは、必ず最新の税制改正内容と公式資料を確認してください。
くるみん認定・えるぼし認定等による上乗せ
賃上げ促進税制では、一定の子育て支援・女性活躍推進に関する認定を受けている企業について、控除率の上乗せが設けられる場合があります。
代表的には、次のような認定が関係します。
| 認定 | 内容 |
|---|---|
| くるみん認定 | 子育て支援に積極的な企業への認定 |
| えるぼし認定 | 女性活躍推進に積極的な企業への認定 |
これらの認定は、税額控除のためだけに取得するものではありません。採用力、定着率、社内制度整備、企業イメージにも関係します。
ただし、認定取得には一定の準備と時間が必要です。申告直前に取得できるものではないため、上乗せを狙う場合は早めに確認する必要があります。
5年間の繰越控除とは
令和6年度税制改正では、中小企業向け賃上げ促進税制に5年間の繰越控除措置が創設されました。ミラサポplusは、中小企業向けに前例のない長期となる5年間の繰越控除措置が創設されたと説明しています。(ミラサポplus)
これは、賃上げを行った年度に赤字などで控除しきれない場合でも、一定の条件を満たせば翌年度以降に繰り越せる仕組みです。
この措置は、特に次のような企業にとって重要です。
- 今期は赤字だが、来期以降の黒字化を見込んでいる
- 新規事業や設備投資で一時的に利益が下がっている
- 人材確保のために先行して賃上げしている
- スタートアップや成長途中の企業
- 採用強化のため、利益より先に人件費が増えている
従来は、赤字企業にとって税額控除のメリットは限定的でした。繰越控除により、すぐに税額控除を使えない企業でも、将来の黒字化に備えて制度を活用できる可能性があります。
ただし、繰越控除にも要件や手続きがあります。申告書への記載や明細書の保存が必要になるため、赤字だから関係ないと判断せず、税理士に確認することが重要です。
申告時に必要になりやすい資料
賃上げ促進税制を適用する場合、給与等支給額や教育訓練費などを確認できる資料が必要になります。
準備しておきたい資料は次のとおりです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 給与台帳 | 従業員ごとの給与・賞与・手当 |
| 源泉徴収関係資料 | 給与支給額との整合性 |
| 決算書 | 人件費、利益、税額 |
| 法人税申告書 | 税額控除の計算・明細 |
| 前年度の給与データ | 比較対象年度の給与等支給額 |
| 教育訓練費の請求書・領収書 | 研修費用の証明 |
| 研修内容の資料 | 教育訓練費に該当するかの確認 |
| 認定関係資料 | くるみん・えるぼし等の認定確認 |
賃上げ促進税制は、決算時に慌てて計算しようとすると大変です。給与データ、賞与、手当、研修費などを月次で整理しておくと、申告時の確認がしやすくなります。
よくある失敗
失敗1:補助金と同じだと思ってしまう
賃上げ促進税制は、補助金ではありません。申請して採択される制度ではなく、税額控除の制度です。
そのため、資金繰りへの影響も補助金とは異なります。税額が減る制度であり、現金が直接入金される制度ではありません。
失敗2:赤字だから関係ないと思ってしまう
赤字の場合、当年度の税額控除効果は限定的です。しかし、中小企業向けには5年間の繰越控除措置があります。(ミラサポplus)
赤字でも、賃上げをしている企業や将来黒字化を見込む企業は、要件を確認する価値があります。
失敗3:役員報酬の増加を含めて考えてしまう
賃上げ促進税制は、従業員への給与等支給額を基準に考える制度です。役員報酬の増加は、制度上の賃上げに含まれない可能性があります。
社長や役員の報酬ではなく、国内雇用者への給与等支給額を確認する必要があります。
失敗4:給与総額だけを見て、人数の変動を考えていない
給与等支給額は、従業員数の増減にも影響されます。
採用によって給与総額が増えた場合と、既存従業員の賃上げによって増えた場合では、実態が異なります。制度上の計算では、対象となる給与等の範囲や比較方法を正しく確認する必要があります。
失敗5:教育訓練費の証憑を残していない
教育訓練費の上乗せを検討する場合、研修内容、対象者、支払先、請求書、領収書などの証憑が重要です。
単に「社員教育に使った」と説明するだけでは不十分です。職務に必要な技術や知識の習得・向上に関する費用であることを示せるようにしておきましょう。
失敗6:制度改正を確認していない
賃上げ促進税制は改正が多い制度です。対象年度、控除率、上乗せ要件、繰越控除、教育訓練費の扱いなどが変わる可能性があります。
特に2026年度税制改正では、大企業・中堅企業向けの見直しに加え、中小企業向けの教育訓練費上乗せについても変更が示されています。(山田パートナーズ)
申告年度の最新情報を確認することが重要です。
賃上げ促進税制とあわせて検討したい制度
賃上げ促進税制は、単独で考えるよりも、他の支援制度とあわせて考えると整理しやすくなります。
| 目的 | 関連制度 |
|---|---|
| 賃上げと設備投資 | 業務改善助成金 |
| 非正規雇用の処遇改善 | キャリアアップ助成金 |
| IT・AI導入による生産性向上 | デジタル化・AI導入補助金 |
| 省力化・人手不足対策 | 省力化投資補助金 |
| 新製品・新サービス開発 | ものづくり補助金 |
| 新規事業への進出 | 中小企業新事業進出補助金 |
賃上げを継続するには、単に給与を上げるだけではなく、生産性を上げる必要があります。
たとえば、業務改善助成金で設備投資を行い、生産性を高めながら最低賃金を引き上げる。デジタル化・AI導入補助金でバックオフィスを効率化し、浮いた時間を売上活動に回す。ものづくり補助金で高付加価値製品を開発し、利益率を上げる。
このように、賃上げ促進税制は「賃上げ後の税負担を軽くする制度」であり、補助金・助成金は「賃上げの原資を作るための投資を支援する制度」と考えるとわかりやすくなります。
申告前に確認したいチェックリスト
賃上げ促進税制を検討する場合は、決算前に次の点を確認しましょう。
- 自社が中小企業向け制度の対象者に該当するか
- 前年度と今年度の給与等支給額を比較できるか
- 給与等支給額が1.5%以上または2.5%以上増加しているか
- 対象となる給与等に役員報酬を含めていないか
- 教育訓練費の上乗せを使えるか
- くるみん認定・えるぼし認定等の上乗せを使えるか
- 法人税額の上限に達していないか
- 赤字の場合、繰越控除を検討できるか
- 申告書に必要な明細を添付できるか
- 顧問税理士と制度適用について確認しているか
特に、給与データの整理は早めに行うべきです。決算後に急いで確認すると、対象者、対象金額、前年度比較、教育訓練費の証憑確認に時間がかかります。
よくある質問
Q1. 賃上げ促進税制は補助金ですか?
いいえ。補助金ではなく税制優遇です。給与等支給額が一定以上増加した場合に、増加額の一部を法人税または所得税から控除できる制度です。
Q2. 赤字でも使えますか?
赤字の場合、当年度の税額控除効果は限定的です。ただし、中小企業向けには5年間の繰越控除措置が創設されています。将来黒字化が見込まれる場合は確認する価値があります。(ミラサポplus)
Q3. 役員報酬を上げた場合も対象ですか?
通常、制度で見るのは国内雇用者への給与等支給額です。役員報酬の増加は対象にならない可能性があります。従業員給与、賞与、手当などの扱いを確認してください。
Q4. 賞与を増やした場合も対象になりますか?
賞与が対象となる給与等に含まれる場合があります。ただし、対象となる給与等の範囲は制度上の定義に従って確認する必要があります。
Q5. 教育訓練費はどのような費用が対象ですか?
外部講師への謝金、外部研修・講習会・セミナーの受講料、通信教育費など、従業員の職務に必要な技術・知識の習得や向上に関する費用が対象になり得ます。中小企業庁のガイドブックでも、研修講座、講習会、研修セミナー、技術指導等に関する費用が説明されています。(中小企業庁)
Q6. いつ申請しますか?
補助金のように事前申請する制度ではありません。通常は、法人税または所得税の申告時に、要件を満たしているかを確認し、必要な明細書を添付して適用します。
Q7. 2026年以降も使えますか?
中小企業向け制度は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象とされています。(中小企業庁) ただし、2026年度税制改正による見直しもあるため、申告年度ごとに最新情報を確認してください。
まとめ:賃上げ促進税制は「賃上げした会社の税負担を軽くする制度」
賃上げ促進税制は、中小企業が従業員の給与を増やした場合に、給与増加額の一定割合を法人税または所得税から控除できる制度です。
中小企業向け制度は、令和6年度税制改正で強化され、法人の場合は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象とされています。個人事業主の場合は、令和7年から令和9年までの各年が対象です。(中小企業庁)
この制度を検討する場合は、次の点を確認しましょう。
- 自社が中小企業向け制度の対象者か
- 前年度より給与等支給額が増えているか
- 増加率が1.5%以上または2.5%以上か
- 税額控除を使えるだけの法人税・所得税があるか
- 赤字の場合、繰越控除を検討できるか
- 教育訓練費や認定による上乗せが使えるか
- 給与台帳・研修費証憑・申告書類を整理できているか
- 最新の税制改正を確認しているか
賃上げ促進税制は、従業員の給与を上げる企業にとって有効な制度です。ただし、補助金のように現金が振り込まれるものではなく、税額控除として税負担を軽くする仕組みです。
賃上げを継続するには、税制優遇だけでなく、生産性向上、価格転嫁、業務効率化、人材育成をセットで考える必要があります。賃上げ促進税制は、その取り組みを税務面から支える制度として活用するのが現実的です。